マンション管理業界では近年、**「管理業者管理者方式」**を採用するマンションが増えています。
管理業者管理者方式とは、マンションの管理会社が、管理委託業務を行うだけでなく、管理組合の「管理者」にも就任する方式です。
理事長や理事のなり手不足を解消できるという大きなメリットがある一方、管理会社に権限が集中することによる利益相反などの問題も指摘されています。
2026年9月5日号の「マンション管理新聞」では、管理会社を対象とした管理業者管理者方式に関する調査結果が掲載されました。
今回は、この調査結果をもとに、管理業者管理者方式の現在地と、導入を検討する管理組合が確認しておきたいポイントについて解説します。
管理会社104社がすでに「受託している」
マンション管理新聞に掲載された調査では、管理業者管理者方式の受託状況について、回答した管理会社284社のうち、次のような結果となっています。
| 回答 | 管理会社数 |
|---|---|
| 受託している | 104社 |
| 今後受託を検討している | 32社 |
| 受託する予定はない | 146社 |
| その他 | 2社 |
「受託している」と回答した104社は、回答会社全体の**約37%**にあたります。
さらに「今後受託を検討している」32社を合わせると136社となり、回答会社の約48%です。
管理業者管理者方式は、もはや一部の管理会社だけが取り扱う特殊な管理方式ではなく、マンション管理の選択肢の一つとして急速に存在感を増していることが分かります。
そもそも「管理業者管理者方式」とは?
一般的なマンションでは、区分所有者の中から理事を選び、理事長が区分所有法上の「管理者」を務めるケースが多くなっています。
一方、管理業者管理者方式では、管理会社が管理者に就任します。
つまり、
従来型
管理組合
↓
理事会・理事長
↓
管理会社を監督する
という関係から、
管理業者管理者方式
管理組合
↓
管理会社が「管理者」と「管理業務」の双方を担う
という形に変わります。
理事会を設置しない方式と組み合わせることで、区分所有者の役員負担を大幅に軽減できる点が大きな特徴です。
なぜ管理業者管理者方式が増えているのか?
最大の理由の一つが、マンション管理組合の役員のなり手不足です。
築年数の経過したマンションでは区分所有者の高齢化が進み、また、賃貸化や外部所有者の増加などによって、
「理事を引き受けてくれる人がいない」
「毎年、役員選任で苦労している」
「理事長の負担が大きすぎる」
「理事会を開催しても人が集まらない」
といった問題を抱える管理組合も少なくありません。
こうした状況に対する一つの解決策として、管理会社に管理者まで任せる方式が注目されています。
国土交通省も、役員の担い手不足などを背景として管理業者が管理者に就任するケースが増加していることを踏まえ、制度整備を進めています。
管理業者管理者方式にはメリットも多い
管理業者管理者方式そのものが悪い仕組みというわけではありません。
適切に運用されれば、管理組合にとって大きなメリットがあります。
① 役員のなり手不足を解消できる
最も分かりやすいメリットです。
「次の理事長を誰にするか」という問題から解放されるため、役員選任に苦労しているマンションでは有力な選択肢になります。
② 区分所有者の負担を減らせる
理事会方式では、理事会への出席だけでなく、管理会社との打ち合わせ、工事の検討、滞納対応など、役員にはさまざまな業務が発生します。
管理業者管理者方式では、こうした負担を大幅に軽減できる可能性があります。
③ 意思決定や実務を進めやすくなる
専門知識を持つ管理会社が管理者となることで、日常的な管理業務について迅速に対応しやすくなることもメリットでしょう。
ただし、「楽になること」と「すべてを任せてよいこと」は別問題です。
ここが管理業者管理者方式を考えるうえで非常に重要です。
最大の注意点は「利益相反」
管理業者管理者方式で最も注意したいのが、利益相反です。
通常の理事会方式であれば、理事会や理事長は管理会社とは別の立場です。
そのため、
「管理委託費は適正なのか?」
「管理会社の仕事に問題はないか?」
「この修繕工事は本当に必要なのか?」
「この業者に発注して問題ないのか?」
などをチェックすることができます。
ところが、管理会社自身が管理者になると、
「管理会社をチェックする立場」と「チェックされる管理会社」が同じになる
という構造が生まれます。
例えば管理会社のグループ会社へ工事を発注する場合など、管理組合の利益と管理会社側の利益が必ずしも一致するとは限りません。
だからこそ、管理業者管理者方式では、通常の理事会方式以上に利益相反を防止する仕組みが重要になります。
「監事」の役割が非常に重要になる
管理会社が管理者になるのであれば、
「では、その管理者を誰がチェックするのか?」
という問題が出てきます。
そこで重要になるのが「監事」です。
管理業者管理者方式を採用する場合には、管理者の業務や管理組合の財産状況などを適切に監査できる仕組みを整える必要があります。
特に、
- 管理会社との契約内容
- 管理費・修繕積立金の支出
- 修繕工事等の発注
- 管理会社のグループ会社等との取引
- 管理組合財産の管理状況
などについて、管理者から独立した立場でチェックできることが重要です。
管理組合内部だけでは十分な監査が難しい場合には、マンション管理士などの第三者専門家を監事等として活用する方法も考えられます。
通帳や印鑑は誰が保管する?
今回のマンション管理新聞の調査では、管理者の印鑑等の保管方法についても取り上げられています。
管理業者管理者方式では、管理組合のお金をどのように管理するのかも重要なポイントです。
導入する際には少なくとも、
「通帳を誰が保管するのか」
「管理組合の印鑑を誰が保管するのか」
「支払いを誰が承認するのか」
「一人(1社)の判断だけで資金を動かせない仕組みになっているか」
といった点を確認しておく必要があります。
管理会社が管理者だからといって、管理組合の財産管理まで無条件ですべて任せてよいわけではありません。
国土交通省もルール整備を進めている
管理業者管理者方式の普及を受け、国土交通省も制度整備を進めています。
2025年12月には、
「マンション標準管理者事務委託契約書」
「マンション標準管理委託契約書」
「管理業者管理者方式を採用した場合のマンション標準管理規約の書き換え表」
などが策定・改正されています。
さらに2026年4月には、「マンションにおける外部管理者方式等に関するガイドライン」も改訂されています。
国土交通省「マンションにおける外部管理者方式等に関するガイドライン」関連情報
つまり現在は、単に「管理会社に理事長の代わりをお願いする」という話ではありません。
管理者の権限や監督体制、利益相反への対応などを含めた制度設計が必要な管理方式になっています。
導入前に最低限確認したい7つのポイント
管理業者管理者方式を検討している管理組合では、少なくとも次の点を確認することをおすすめします。
- 管理者にどこまでの権限を与えるのか
- 管理者を誰が監査・監督するのか
- 利益相反取引についてどのようなルールがあるのか
- 工事発注や業者選定のルールはどうなっているか
- 通帳・印鑑など管理組合財産の管理体制はどうなっているか
- 管理者への報酬はいくらなのか
- 将来、管理者を変更・解任したい場合にどのような手続きが必要なのか
特に重要なのは、導入するときだけでなく、「やめたいときにどうするのか」まで確認しておくことです。
「管理会社に任せる」以外の選択肢もある
役員のなり手不足に悩んでいるからといって、必ずしも管理業者管理者方式しか選択肢がないわけではありません。
例えば、
従来どおり理事会方式を継続する方法、理事会運営を簡素化する方法、管理会社とは独立した外部専門家を管理者として活用する方法なども考えられます。
それぞれメリット・デメリットがあります。
大切なのは、
「役員のなり手がいないから、とりあえず管理会社に全部任せよう」
と安易に決めないことです。
まとめ|管理業者管理者方式は「誰が管理会社をチェックするのか」が重要
マンション管理新聞の調査では、回答した管理会社284社のうち104社が、すでに管理業者管理者方式を受託していると回答しています。
役員のなり手不足が深刻化するなか、今後さらに普及していく可能性があります。
管理業者管理者方式は、役員負担を大幅に軽減できる有効な選択肢です。
一方で、管理会社が「管理者」と「管理業務の受託者」という二つの立場を持つことになる以上、利益相反への対策と第三者によるチェック機能が非常に重要になります。
そして忘れてはいけないのが、
管理業者管理者方式を採用しても、マンション管理の主体はあくまで区分所有者で構成される管理組合である
ということです。
管理会社にどこまで任せるのか。
誰が管理会社をチェックするのか。
問題があった場合に管理者を変更できる仕組みになっているのか。
こうした点まで十分に検討したうえで、それぞれのマンションに適した管理方式を選択することが重要です。
以上です。更に詳しい情報が知りたい方はエースマンション管理士事務所へお気軽にご相談ください。

