管理会社に委託せず、理事会や組合員自身でマンションを運営する「自主管理方式」。特に小規模マンションなどでは、コスト削減を目的に自主管理を選ぶケースも増えています。しかし、数年運営を続けていくうちに、
- 会計処理が属人化してしまう
- 契約や点検の管理が曖昧
- 修繕積立金が不足してきた
- 理事のなり手がいない
といった課題が顕在化することが少なくありません。今回は、実際に多くの自主管理組合で見られる「5つの課題」と、専門家から見た改善のポイントを解説します。
① 会計・出納業務の属人化と透明性不足
自主管理では、会計担当理事が「自分のExcel」や「個人口座」で管理している例が今も多く見られます。
しかし、この方法には以下のようなリスクがあります。
- 入出金ミスや領収書紛失の発生
- 引き継ぎ時にデータが不明瞭
- 万が一の不正や誤解が生じやすい
【改善のポイント】
- 組合名義の口座を開設し、個人口座と分離
信用金庫やゆうちょ銀行で簡単に開設可能。通帳・印鑑の管理責任を明確化しましょう。 - クラウド会計やExcelテンプレートを活用
freeeやMoneyForwardなど、低コストで導入できる会計アプリを活用。 - 外部監査または会計監査担当を設ける
年1回の内部チェックをルール化し、不正防止と信頼性アップにつなげます。
② 契約・点検業務の管理が曖昧
エレベーター、消防、貯水槽、清掃などの契約は複雑で、管理会社がいないと見落としがちです。
特に更新時期の失念や、法定点検漏れによる行政指導が問題になるケースもあります。
【改善のポイント】
- 「契約一覧表」を作成
契約先・業務内容・金額・契約期間・更新月を一覧化します(Excelで十分)。 - 理事会で毎年「契約更新確認」を議題化
会計年度の始まりに契約内容を洗い直すルールを作りましょう。 - 点検報告書・証明書をクラウド保存
消防・エレベーターなどの証明書をPDF化し、理事交代後も確認できるようにします。
③ 長期修繕計画が形骸化している
自主管理組合では、10年以上前に作成した長期修繕計画をそのままにしているケースが多く見られます。
しかし、建築資材や人件費は上昇しており、当初想定の工事費の1.5〜2倍に膨らんでいることもあります。
【改善のポイント】
- 5年ごとの計画見直しを原則に
国土交通省「長期修繕計画ガイドライン」でも推奨されています。 - 最新の工事単価を反映
最近の見積もりや周辺相場を反映し、修繕積立金の妥当性を検証しましょう。 - 修繕委員会を設置
専門家を交えて見積比較・工事内容を検証する体制を整えることが重要です。 - 管理計画認定制度を視野に
計画・資金・体制を整えることで認定取得も可能に。資産価値維持にも有効です。
④ 理事のなり手不足・業務負担の偏り
「毎年同じ人が理事を続けている」「理事会が1人運営」という状況は、自主管理組合で非常によく見られます。
【改善のポイント】
- 役割分担を明確に
理事長=全体統括、会計=出納管理、設備=点検確認など、分業を徹底します。 - 補佐理事・サポート理事制度を導入
次期理事への引き継ぎをスムーズにする体制を作りましょう。 - 外部専門家を活用
外部理事・顧問管理士を委託し、理事会の負担を軽減。第三者の視点も得られます。 - オンライン・書面決議を活用
全員が集まらなくても意思決定できる環境を整えることが継続運営の鍵です。
⑤ 居住者間の情報共有・意思疎通の不足
掲示板中心の連絡では、若い世代や共働き世帯に情報が届きにくく、参加意識が低下します。
【改善のポイント】
- メール配信・LINE公式アカウントで周知
重要なお知らせを電子化し、記録を残しやすくします。 - Googleフォームで意見収集
総会前のアンケートや意見募集に活用し、合意形成を促進します。 - 議事録・収支報告の定期公開
「見える運営」を徹底し、透明性を高めます。 - 年1回の交流イベント開催
日常的なつながりがある組合ほど、トラブル発生率は低い傾向にあります。
まとめ
自主管理マンションは「自分たちの建物を自分たちで守る」という意識が強く、自由度の高い運営が可能です。
しかし同時に、専門知識と継続的な体制維持が欠かせません。
少しずつでも構いません。
- 会計を見直す
- 契約台帳を整理する
- 専門家に年1回相談する
こうした小さなステップが、将来的なトラブル防止と資産価値維持につながります。もし運営に行き詰まりを感じている場合は、「顧問管理士制度」や「支援型自主管理」の活用も検討してみてください。専門家のサポートを上手に取り入れながら、持続可能で安心な自主管理を目指しましょう。
更に詳しい情報が知りたい方はエースマンション管理士事務所へお気軽にご相談ください。


